書く REP報告


英国REPコース参加と学校見学


           旭出学園教育研究所  服部由起子

 6月の末から5日間のマカトンREPコースに参加し、週末をはさんでその翌週に3日間の日程で、マカトン法の実践を積んでいる3校の見学をさせていただきました。例年、REPコースについては詳しく報告されているので、今回は学校見学を中心に報告させていただこうと思います。


< REPコース >

コースの内容は大きく2つの部分に分かれています。

1つ目は、マカトン法の理論的背景や特徴、指導法について講義を通じて再確認し、グループ討議を通じてその理解を深めること。そして各語彙のサインを正確かつスムーズに出せるよう実技練習を通じて確認すること。

 2つ目は、コース4日目にグループに分かれて行う初級ワークショップに向けての準備です。
 ワークショップの企画運営やプレゼンテーションの方法についての講義を受けた後、グループごとに各講義セッションと実技セッションの分担を決め、準備をします。
 当日のワークショップでは、各自担当セッションの講義を務め、その結果がREP資格を目的とした今回の研修成果として評価を受けます。


 10年程前にアメリカへの留学経験のあった私は、英語で授業を受けた経験があり、ことばの面についてはあまり不安をもたずにコースに参加しました。
 ところが、初めて浸る本場のイギリス英語には思いがけずかなり頭を痛めました。
 アメリカ英語との発音の違い、使われる語彙の違い、イギリス国内の多様なアクセントなど、同じ英語でもアメリカにいるときの6割程度しか聴き取れません。

 とにかく必死で聴き、わからなかったところは、休憩時間に他の参加者や講師の先生に訊くようにしました。
 参加者の中でも特に、ノルウェー出身でパキスタン在住、アメリカン・スクールで教育を受けたというリサさんの英語は私にとって大変わかりやすく、ずいぶん助けていただきました。

 本番のワークショップでは、シンボルについての講義と2つの実技のセッションを担当しました。
英語での講義は、いくら準備しても「これでもうだいじょうぶ」という気持ちが湧いてきません。結局、不安が治まらず、机にしがみついたまま朝を迎えてしまいました。

 本番は、メモを片手に緊張して望みましたが、グループのメンバーが大きくうなずきながら聴いてくれている様子に励まされ、何とか無事に終えることができました。


< 学校見学 >

 事前にマーガレット・ウォーカー先生に、マカトン法が自閉症児・者の教育にどのように使われているか知りたい旨をお伝えし、見学できる学校を手配していただきました。

Woodlands school

 初日に見学した学校は、ロンドン中心地から電車で約30分、Leatherhead という町にある比較的小規模の Woodlands School という養護学校です。

 2歳から19歳までの約80名の知的障害をもつ子どもたちが学んでいました。

 マカトンREPの資格をもつSTと教師がいて、その先生方を中心に全校的にマカトン法が浸透していました。

 また、自閉症の子どもが年々増加しており、学校側はその対応として TEACCH (Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Children) や PECS (Picture Exchange Communication System) などの自閉症児・者のための指導プログラムの研修に教師を派遣しているとのことでした。

 ここでは、中〜重度の知的障害をもつ6歳の自閉症児5名のグループ指導を見せていただきました。

  おやつの時間には、コミュニケーション指導の一環として、各自欲しい飲み物とお菓子を教師に要求することを指導されます。

 
まだことばやサインで伝えることができない子どもは、PECSの最も初歩的なコミュニケーションボードに、自分の欲しいもののマカトンシンボルを貼って教師に渡すことを促されます。

 また、教室の移動の際には、移動先の教室を表すシンボルをもって移動し、目的の教室に着くとそこに貼ってある同じシンボルにマッチングさせて確認するといった、TEACCHの「場の構造化」の手法とマカトンシンボルを組み合わせて使用している例なども見られました。

 ひとつの指導技法に頼るのではなく、対象となる子どもの特徴と必要性に応じていくつかの技法を組み合わせて使うことで、より子どもに焦点化された指導ができることを実感しました。

Hesley group

 2日目の訪問先は、Doncaster という郊外の町にある Hesley Group という学校法人です。

 9校の全寮制の学校から成る英国最大規模の組織で、重度の行動障害をもつ自閉症児・者および重度の知的障害児・者を対象としています。
 いくつかの学校や寮、職業訓練施設などを見学させていただきました。

 ここの生徒たちは知的障害や行動障害の程度が重く、年齢が高くなってから転入してくる生徒も多いため、サインを日常のコミュニケーション手段として使える生徒は少ないとのことでした。

 しかし、シンボルを広く機能的に使用していることが印象的でした。

 例えば、コミュニケーションの基本姿勢を育てるためにシンボルが使われています。

 Hesley でも PECS とシンボルを使って、欲しいもの、やりたいことを選択、要求することを様々な場面で練習していました。

 また、予定や指示などの理解や想起を助けるためにシンボルが使われます。

 シンボルのスケジュール表などの利用はもちろんのこと、教師は外出先にも名刺入れに入れたシンボルを携帯し、必要なときにはいつでもシンボルを使って、指示や次の予定が伝えられるように備えています。

 待ち時間などに不安を感じ、問題行動を起こしやすい生徒も、シンボルを見せられることで次に起こることの予測が立ち、落ち着けるようになります。

Carden Primary School

 3日目に訪問したのは、ロンドンから約1時間の Brighton という町にある、Carden Primary School という通常教育の小学校で、校内にある Speech and Language Centre (言語通級学級)を見学させていただきました。

 この学級では、知的には遅れがないものの、ことばやコミュニケーションに問題をもつ16名の児童が通級の形態で指導を受けています。

 当日は、5〜7歳児の8名のグループ指導を見せていただきました。

 時間割には、reading や writing などの教科が並び、個別指導の時間以外は通常学級のものとあまり差がなく、指導内容やレベルも、年齢相当の範囲から大きくずれてはいません。

 しかし、子どもたちの input (ことばの理解と読み)と output (ことばの表出と書き)の弱さは、サインとシンボルの使用によって全面的に補償されています。

 例えば、本の読み聞かせでは、教師はサインをつけて読み、サインをつけて子どもに質問します。子どももサインを使ってそれに答えます。

 単語を読む練習では、シンボルを用います。テーマごと(例えば天気や曜日)にシンボルがまとめて用意されており、口頭の説明を補う板書の替わりにもシンボルが使われています。

現在、日本でマカトン法が使われている対象は、知的障害をもつ大人や子どもが中心ですが、LD児や知的に遅れのない自閉症児などへの適用も今後検討していくべき課題の一つであると思われました。


 今回の研修を通じて、マカトン法について理解を深められただけでなく、日々マカトン法を実践し、コミュニケーションに障害をもつ子どもや大人の教育に全力を傾けている多くの方々にお話を伺えたことは非常に貴重な体験でした。 この経験を今後の臨床や研究に活かしていきたいと思います。

 最後に、今回の機会を与えてくださった日本マカトン協会に心より感謝いたします。

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