「生きる力」を支えてくれたマカトン

滋賀県大津市在住 松田智子 


の息子、真人は、平成18年6月3日にこの世を去りました。

14歳と6ケ月、中学3年生でした。病名は、コケイン症候群という大変めずらしい病気でした。早老病の一種です。

早老病とは、読んで字のごとく早く老いる病気です。進行性の病気でもあります。

でも、髪の毛が抜けたり、白髪になったりする事はありません。肌もスベスベで、身長85cm、体重9Kg、3歳児ぐらい、とても可愛い男の子を思い浮かべて下さい。

私が言うのも何ですがとてもハンサム君だったのです。あのヨン様に似ていると大騒ぎになり、マー様と呼ばれたことも・・・

マー君の状態をお伝えしましょう。車椅子に乗って自走していました。両耳に補聴器、目にはサングラス、足には装具、頭にはヘッドギア、これがマー君の姿です。

歩行器で歩くのが大好きで、気持ちに足が付いていかない感じ、後から歩行器が付いてくる感じ、元気にそして意欲満々に歩く姿がマー君の性格を表していると言ってもいいでしょう。

マー君は小さい頃から人が大好きで人見知りすることもなく、誰とでもすぐ握手で仲良くなりました。

これには、ご近所との関係が深く結びついていたと思うのです。

赤ちゃんの頃からお隣さんのお家にお邪魔して、その家の子どものように、ごはんをたべさせてもらったり、またある時は、「マー君、借りるよ」と近所のおばあちゃんとスーパーへ買い物に。

帰って来たマー君の手には、しっかりとおやつが握られていました。「このお菓子がどうしても欲しかったみたいで」とおばあちゃんはニコニコ、マー君は心の中でXサイン。

こういう生活の中で、人とふれあう事の楽しさを覚え、人が大好きになっていったのだと思います。

 マー君とマカトンとを結び付けてくれたのは、あるお母さんとの出会いでした。

マー君と同じ病気を持った5歳先輩の男の子を育てておられるお母さんでした。そのお母さんから大切な事をたくさん教えていただきました。

なにより、マカトンと出会えたことでマー君の人生が、生き生きとした素晴らしいものになった事に感謝の気持ちでいっぱいです。

先輩のお母さんが、教えてくれる少し先の未来。それは、とても大きなチャンスをもらった事だと思いました。

なぜなら、そうならないように注意もできるし、時期も延ばせる、また、そうなるものなら、その前に何をすべきか考え、行動するための準備ができるのです。

マー君の場合は、マカトンのカード・サインを使っていましたが、特にサインは目が見えにくくなってからも大活躍でした。ことばの教室の先生の指導の下、少し先の未来のために準備をし、指導していただいたことに心より感謝しております。

 マー君は、マカトンサインに出会って、水を得た魚のように、次々と覚え、表現し、そして使いこなしている姿には、驚くばかりでした。

それは見ている私にとっても楽しい時間であり、希望にあふれた日々でした。

お伝えしたいエピソードがたくさんあるのですが、ここでは、学校での楽しい出来事をいくつかお話したいと思います。

マカトンサインを使っていくには、周りの理解が不可欠です。

一年生の時に、たくさんのお友達や先生にマカトンサインのことを知ってもらおうと、マー君がマカトンの先生になって教えるという授業の時間を持っていただきました。

この事によって、マカトンサインが多くの人に理解してもらえた事だけではなく、子供たちのマー君を見る見方が変わったのをはっきりと感じました。

それは、二年生になって間もなくの事でした。新一年生の男の子が、マー君を見て「あー、赤ちゃんや。赤ちゃんは、学校へ来たらあかんのに!」と指を差しながら叫んでいました。

その言葉を聞いて、また、一から話さないとダメかなと思い、言おうとした時に、

「この人は、松田真人君。二年生やで。赤ちゃんと違うし。だって、手話だってできはるんやで」

大きく力強い女の子の声。その言葉に、

「へーすごいやん」

と男の子は去って行きました。

私は心の中で、拍手喝采、感動の嵐。いままで私だけがマー君の説明をしていたのに、お友達が話してくれたなんて。ほんとうに嬉しくて、嬉しくて。

子供の力は素晴らしいと思った出来事でした。

 マー君は、自分の思いが伝わる喜びと共に自分でもマカトンサインを作り、上手く使っていました。

2語、3語とつなげてマカトンサインを使えるようになったマー君は、「しんどい」と「熱を測る」のサインで、保健室に逃げ込む事を覚え、やりたくない事、苦手な事などの勉強をサボっていました。

これも何回か使っているうちに、みんなに知れ渡り、狼少年のように、疑いの眼差しに、耐えられず、薄ら笑いを浮かべるのでした。

他にもこんな事もありました。

あまりのわがままについに先生が、

「マー君!廊下に立ってなさい!」 とひとり廊下に。

可愛そうな姿に、

「一緒に謝ってあげようか」

とやさしいお姉さんの声。頑固なマー君は首を縦にふりません。

今度は、

「マー君、泣いたら中に入れてもらえるで。」

とやんちゃな男の子は、ツバを目に付ける悪知恵を教えます。

また違う男の子が来て、マー君に、

「もういいから、向こうで遊ぼう」

と誘っていました。

さてマー君はどうするのかと様子を見ていたら、

「先生。先生」

と呼ぶ声に行って見ると、しょんぼり下を向いたマー君は、指を口に入れ、付いたツバをホッペタに付けていました。

その様子を見た先生は思わず抱きしめたそうです。

こんな風にマー君は、学校生活を思い切り楽しんでいました。

皆さんも小さなヨン様に似たマ一様の可愛い笑顔を思い浮かべていただいたでしょうか。

今回、マー君の事を書いてみませんかと、声をかけて頂いた時、私にはまだマー君の事を振り返る自信がありませんでした。

でも、可愛いエピソードを思い浮かべている度に、思い出し笑いを何回もし、あれもこれもといっぱい思い出す事ができました。マー君の愛に包まれているようでした。

ことばの教室の先生には、長い間お世話になっていますが、この素敵な出合いをずっと大切にしていきたいと思います。

今の私が言えるのは、マー君は、はじめて出会う学校という社会のなかで、立派に自立した生活を送っていたのだという事です。

障害の差で自立の形も意味も変わってくるとは思うのですが、思いを一生懸命伝えようと頑張るマー君、学校にはぼくひとりで大丈夫と追い返すように手を振るマー君、まるで社会に旅立つ姿のように思えました。

マカトンサインとの出会いは、マー君には思いの伝わる楽しさを、そして、多くの人には、コミュニケーションの大切さを知らせてくれました。

マカトンはマー君の生きる力をずっと支えてくれた大切なものでした。そして、最後の最後まで、サインを使って生き抜いてくれました。

マー君と出合った、たくさんの人たちにふれてもらえたマカトンサイン。

その種が芽を出し、花咲くことを心より願っています。

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