マカトンREPコースに参加して

  菊池さん                                             旭出学園教育研究所

                                                    菊池 けい子                                     

                                                   

 昨年6月末から7月始めにかけての5日間、英国のウィンチェスター大学にある宿泊施設で開催された、マカトンREPコースに参加しました。REPコースの前後に、マカトン法の創始者であるマーガレット・ウォーカー先生夫妻から直接お話を伺ったり、マカトン法を取り入れている教会や学校を訪ねる機会が与えられました。ここでは、それらの機会をとおして学んだこと、並ウォーカー夫妻びにマカトン法の魅力について改めて感じたことを報告したいと思います。

<研修前日>

 REPコースが始まる前日、マーガレット・ウォーカー先生夫妻が前泊したホテルから大学の宿泊先まで、車で送って下さいました。途中で、立ち寄ったウォーカー先生のご自宅は、これまで長年にわたって英国のマカトン協会の事務局になっています。お家に着いた時、ウォーカー先生は「驚かないでね!今、家じゅう段ボールだらけなのよ」と、7月中旬に事務局が新しく別の場所へ引っ越すことを嬉しそうに話して下さいました。部屋の中にはところ狭しと積み上げられた段ボール箱(教材や絵カードなどが梱包されてる)があり、現在進行中のプロジェクトの経過が示された掲示物などから、私はウォーカー先生をはじめとするスタッフの方々のマカトン法の魅力を伝えたいという熱い思いを強く感じました。

REPコース>

 REPコースは、英国ではマカトン法の指導者としての資格を取得するための最終コースとして位置づけられています。受講者は、マカトン法のワークショップをいくつか受講して、職場でマカトン法の経験をある程度積んでから臨むことが勧められています。今回の参加者は、全部で18名、スピーチセラピスト、教師、指導員、養護教諭、クループホームの職員、ソーシャルワーカーなどの仕事をされている方々でした。

 コースの前半では、マカトン法の理論的な背景について講義を聴くだけでなく、グループで討議することによって理解を深めるとともに、ステージ1~9までの核語彙のサインがスムーズにきちんと表出できるかを確認、練習を行いました。さらに、サインを人にわかりやすく教えるために、サインの分析や、実際に言葉で説明する練習、また新聞記事や絵本を題材にサインやシンボルへ翻訳する実習などを行いました。

後半は、4日目に行う模擬ワークショップの準備です。ワークショップの運営の仕方などについて講義を受けた後、参加者は4~5名のグループに分かれて、基礎ワークショップ実施に向けて準備をすすめます。各自、割り当てられた講義と実技のセッションを担当して、ワークショップ当日は、指導者と受講者、両方の役割をとることになります。そして、その結果がREP資格の取得が目的であるこのコースにおける研修成果として評価されることになります。

学生時代、米国で学んだことがあるので、英語で講義を受けることについては余り心配なかったのですが、本場のQueen`s Englishの発音がはじめは聞き取りにくかったです。グループ討議で、参加者の皆さんが積極的に発言する中で、自分の意見を思うように伝えられないもどかしさもありましたが、せっかくの機会を楽しもう!と思って、わからないことはすすんで質問するようにしました。他の参加者の方々には、丁寧に教えていただき、色々助けていただいたことはとても有り難いことでした。また、5日間、寝食を共にする中で、英国での特別支援教育の現状について、話を聞く機会を得たことは、大変有意義でした。また、英国で言語治療を受ける子どもの実態について、文化的に異なる背景をもった子どもの多くが対象となるために、サインとシンボルの有効性が評価されているなど、とても興味深い話を聞くことができました。コース参加者

模擬ワークショップが無事に終わった夜は、夕食後近くのパブに出かけて、慰労会。そこでは、英国と日本でサインも意味も同じもの(例えば、「ちょうだい」)もあれば、サインが同じでも意味が全く違うものがあるという話で盛り上がりました。英国で、女の人を表すサイン(人指し指を、顔のあごの輪郭に沿って線をひく)は日本では、「マフィア」を意味すると伝えたところ、とても驚かれ、サインがいかに文化的な影響を受けて作られたものであるかを、お互い楽しく分ちあうひと時でした。参加者の仲間に励まされて、学生生活に戻ったような充実した5日間のプログラムを無事に過ごすことができました。

<ファミリー・サービス>

 REPコースが終わった週末、ロンドン郊外のAltonにある教会を訪ねました。前から、マカトンのサインやシンボルを使った礼拝を守っているクリスチャンのグループがあることは聞いていました。この機会にぜひ訪ねたいという希望を伝えたところ、マカトンの指導者でもあるシーラさんのご厚意で、日曜日の礼拝に案内していただきました。その教会では、月1回「ファミリー・サービス」という礼拝の時、サインやシンボルを使った礼拝を守っているのだそうです。礼拝には、地域にある知的障がい者のグループ・ホームからたくさんの方が参加されていました。プログラムは、文字とシンボルで掲示されていて、賛美歌はサインをしながら歌います。聖書朗読もサインをつけて朗読され、メッセージは、牧師の説教ではなく、寸劇が知的障がい者のグループを中心とした方々によって演じられました。

 このような礼拝にはじめて参加して、私は教会の方々がサインやシンボルの使用について大変よく準備して臨んでいることに深い感銘を受けました。礼拝後、シーラさんから、今日はアスペルガー症候群と診断を受けている男の子がわざわざ「今日の礼拝は、何をやるのかが示されていて、とてもわかりやすかった」と言いに来てくれたという話を聞いて、その子どもの特性に応じた支援の重要性を改めて感じました。

St. Ann`s School見学>

 翌週、マカトン・チャリティーのジュリーさんの手配で、ロンドン中心部から、電車で約1時間離れた郊外にある、St. Ann`s schoolという特別支援学校を見学しました。私立のキリスト教系の女子校として1901年に創立されたそうですが、1982年に、14~19歳の子どもを対象とした特別支援学校となり、現在に至っています。生徒数は、約80名。学年構成は小5〜高3となっています。知的障害、発達障害、重複障害のある子どもたちが学んでいます。在籍している生徒の国籍も様々で、日本人の生徒も一人在籍していました。

 女性の教頭先生に校内を案内していただきました。

 校舎に入って、まず目を引いたのは、『わたしはやった!』というコーナーでした。生徒の写真と、何を成し遂げたかが、文字とシンボル文で掲示されていました。この学校では、毎週、「よくやった会議」と称して、生徒たちに自分が成し遂げたことや記録に残してほしいことについて話し合ったり、評価する機会をもっているそうです。そして、毎週、各クラスから推薦された生徒が、何を成し遂げたかが掲示されます。校長は、半年毎に、生徒たちに表彰状を送り、卒業時には、大勢の列席者の前で、達成した記録として、CD、ビデオを含めて、表彰状を送る式を行っているのだそうです。

 各教室の入り口にはマカトン・シンボルが表示されていて、一目で何の教室かがよくわかりました。教室内の時間割、非常時に気をつけること、教材の場所、生徒の紹介などの掲示物は、どれもマカトン・シンボルが使われていました。美術室では、作業の内容、道具、材料、素材などについて、小さなシンボル・カード(マジックテープで取り外し可)が壁に貼ってありました。授業中、これを使って、作業の内容を確認したり、希望を伝えるやりとりを行うのだそうです。

 校内を見学した後、小5のクラスで、スナックタイムとコミュニケーションの授業を見学させていただきました。スナックタイムは、各自持ってきた飲み物とおやつを食べる時間です。子どもたちは教師との間で、「おいしい」、「ちょうだい」「もっと」といったサインを使ってやりとりをしていました。その後見学した、ETCとよばれるコンピューターを活用してすすめられる授業は、コミュニケーション・スキルを伸ばすことを目標としています。生徒は7名、教師は、補助教諭も含めて5名。インターラクションホワイトボードというIT機器が使われ、生徒がタッチパネルになっている画面上のシンボルにタッチすると、それが音声となり、さらに文が完成すると、その生徒の好きな歌や音楽が演奏されたり、文の内容に関係した音が流れました。音声言語のない生徒は、自分用のコミュニケーション・ボード(VOCA)を使って、絵やシンボルを選んで、言いたいことを発表していました。授業の雰囲気は明るく、どの生徒にも、相手に伝えようとする姿勢がみられ、授業の合間にも、生徒同士、アイコンタクトをとったり、投げキスをしたりといったかかわりが活発で、コミュニケーションを楽しむ姿が見られました。そして、その中で、教師が思春期という年齢を考慮して、“No kissing!”ときちんと指導していたのが、印象的でした。

         

 今回、英国での研修を通して、マカトン法がコミュニケーションについて特別なニーズのある子どもや大人の間で、優れたAAC手段として、広く使用されているだけでなく、考案されてから30年以上過ぎた今も、その時代や社会のニーズに応じて、指導法として発展していることを強く実感しました。定型発達の子どもにもサインやシンボルを適用する「マカトン・ベビーサイン」のとりくみや、公共の出版物やパンフレットをサイン・シンボル文へ翻訳する事業、さらには、警察や裁判所で知的障害のある方から事情を聴取する時に必要となりそうな語彙のサイン・シンボルを考案する事業などがあげられます。どの事業も、ウォーカー先生をはじめ、マカトン法にかかわっている方々の熱い思いに支えられて展開していることを強く感じました。そして、その思いとは、障害のある人が、社会の中で、人と共生しながら、心豊かに生活するためにはどのような支援が必要かを常に追求する心ではないかと思いました。

 マカトン法が日本に紹介されてから、20年の歳月がすぎました。現在ワークショップの改訂に取り組んでいるところですが、今後ともニーズに応じた改良や検討を行っていくことがとても重要であることを改めて感じました。

 最後に、このような機会を与えてくださいました日本マカトン協会に心より感謝申し上げます。

バックナンバレターへ
ホームへ