<マーガレット・ウォーカー氏>

すべての人々がコミュニケーションできるようになるために!

 サイン・シンボル・音声を用いた言語発達プログラム“マカトン法”を考案した

 


マーガレット・ウォーカー氏は、1968年、ロンドン大学講師、言語聴覚士(ST)としてサリー州・ボトリーパーク・ホスピタルに勤務。ここは学習に困難のある人たちのための先進的な収容施設でしたが、当時、施設の利用者たちは、教育をほとんど受けず、社会と交流する機会も限られていました。そこでウォーカー氏は、施設職員が、利用者とことばだけのやりとりで、利用者に、自己表現ができないことによる、暴力的な振る舞いや不満を招いているのを見ました。

 今年、80歳になったウォーカー氏はこう話します。

「利用者の
1人が、突然私の腕を掴み、噛みついてきました。その時です。私は彼の自己表現が出来ないことによる切実な不満や辛さを痛切に感じさせられたのです」

 この経験から、彼女は、“従来のどの方法とも異なる、彼らに適したコミュニケーション手段はないか”という想いに駆られ、施設利用者1110名全員について言語状況の評価を実施することにしました。

一方、以前から、彼女は重い聴覚障がいのある子ども達にイギリス手話(BSL)を使っていましたので、ここでも音声と共にイギリス手話を基にしたサインを用いてみてはどうかと考えました。「私は、何人かに、実験的に音声にサインを加えて使ってみることにしました」

それから半年の間、施設の職員の利用者に対する声かけと、それに対する利用者の反応をできる限りすべて記録することにしました。数千ページに及んだ記録を丹念に調べた結果、彼らの意味のあるやりとりは、わずか約350の概念に集約されることに気づきました。―― これこそ、後の“マカトン核語彙”であり、コミュニケーションを促すために、サイン・シンボル・音声を組み合わせるという独自の言語発達プログラムのはじまりでした。

こうして創られたマカトン法は次第に広まっていき、1976年、彼女は40名ほどの参加でしたが最初のワークショップを開催しました。以後、ワークショップは次々に開催されるようになり、2年後の1978年には、彼女の手で普及組織が設立されました。現在のマカトン・チャリティーとなるものです。

マカトン法は、現在まで、世界中のおよそ40か国以上で使われています。イギリスでは、100万人以上の子どもや大人が、マカトンサインやシンボルを使い、そして、多様な事情を抱える10万人が、主たるコミュニケーション手段として、マカトン法でやりとりしています。

アン・マリ-さんの息子、アイザック君は、ダウン症で重い聴覚障害があります。マリーさんは、「マカトンは、私の息子に声を与えました。マカトンがあることで、彼は、孤独を感じないし、ストレスもたまりません。マカトンがあることで、幼い我が子とのやり取りできるようになり、とても幸せです。」と話しています。

昨年、マカトン法は、BBCの子ども向け番組“CBeebies Bedtime Stories”で特集され、今では、主に公立の初等教育で使われています。

ウォーカー氏は、「私は、自分の始めたことが、障害のある何千もの多くの子どもや大人の助けとなっていることに驚いています。それはとても喜ばしいことです。私が最初にボトリーパークで臨床を始めた時は、“私たちがこの状況を何とかしなければ”という使命感がすべてでした。マカトン法が、収容施設のドアを出て世界中に広まっていくなどとは想像だにしていませんでした。私たちは、ただ“ 障害のある人たちに、人とコミュニケートできることによる情緒的な安定を与えたい”ただ、それだけが願いだったのです。しかし、今振り返ってみると、マカトン法の考案は、世界中の人々に、だれもがコミュニケーションができる喜びを与えたのかもしれませんね。」

 

Pride of Britain について

 1999年に始まり、今年記念となる20周年を迎えたThe Mirror’s Pride of Britain賞は、その年、各分野で目覚ましい貢献をした人10名が選ばれる有力大衆紙The Mirrorによる賞です。英国全土の、全での年齢、あらゆる職業のごく一般的な市民も対象に、公募でノミネートされる数万人の中から選ばれるため、この時期恒例の発表には社会一般から非常に高い関心が寄せられます。その模様は民放テレビ最大手のITVでも取り上げられ、業績の内容は数週間放映されます。今年、ウォーカー氏は審査員の特別推薦として10名中のトップで受賞されました。尚、マーガレット・ウォーカーさんは、1997年に英国の正式叙勲、Order of the British Empire(大英帝国勲章)を受勲しています。

 

 (マカトン・チユーター 齋藤愛子 訳)