英国マカトン REP 養成ワークショップに参加して

              
旭出学園教育研究所
                
   
社会福祉法人すずらんの会ぱれっと 岡本 朗子


  20169 月、英国のサリー大学で開催されたマカトン REP養成ワークショップに参加させていただきました。
2 名のシニアチューター、私を含めて 9 名のの受講者一体となった合宿形式の5日間、多くの貴重な経験をさせていただきましたのでご報告します。
  1. ことばの壁があって分かったこと
  英語で講義を聞きグループディスカッションをする。それだけでなく、英語で foundation workshop(日本の基礎)の講義とサイン練習を担当する。相当な英語力が要求されることなので、英会話の勉強はできるだけやりました。初日の自己紹介ではシンボルと自前のイラストで紙芝居を作り、「ゆっくりと話して、できればサインを一緒に使ってくれたらうれしい」とお願いしました。
 講義の内容の多くは、事前に文献をたくさん読んでいたおかげで、当日配布された資料に目を通しながら概要を把握し、知りたかったメタ言語とシンボルとの関係や、サイン使用による発話の明瞭度の改善効果とその理由など、興味深く参加することができました。
  しかし、講義はそのようなトピックから始まり、縦横に話題が広がり、受講者たちが講師と対等に意見を交換するディスカッションへと発展しました。うまくいった講義というのは受講者を活性化し、ディスカッションが活発に行われた時なのです。しかし、その瞬間に私は「ドン!」とことばの壁に激突してしまいます。これからの数多いグループワークや模擬ワークショップを乗り越えて合格をいただくにはことばの壁を乗り越え、何とかするしかありません。講義の合間、食事の時、とにかく話題が分かった時に積極的に質問することから始めました。
 Akiko は話題が分かると自分の意見が言えるようだ、と分かった受講生たちのそれからのコミュニケーション能力には目をみはるものがありました。まず、一人のクラスメートは自分が Akiko の通訳になる、と決めてくれたようで、なんと、私に対する全てのスピーチを英国マカトンサイン併用で話しかけてくれるようになりました。

 その様子を見ていたメンバーが更に二人、マカトンサインを使ってくれるようになりました。驚いたことに、この三人は、講師から正確なサインを出すように、と一番注意を受けることが多かった三人であり、しかも三人とも恐ろしく多弁で早口、一番聞き取りづらい人たちだったのです。一人はメンバーの中で二番目に年上(最年長は私でした)、一人は小柄な女性ですが、750CC のバイクをロンドン市内で運転している時に巻き込まれた事故の後遺症で指が良く動かず、正確なサインを出す上で支障があったそうです。もう一人の人はサインに自信が無いらしく、常時サインの正確さをチェックされることに音を上げていました。
 決してサインが得意とは言えなかった三人が私にサイン併用で話す様子を見ていたクラスメートたちにも変化が起こりました。他のクラスメートも全員が私に話す時にサインを使うか、とてもゆっくりと話してくれるようになりました。私もサイン併用で、力いっぱい話をし、彼らと一緒にいることが楽しいのです、とアピールしました。
 ディスカッションが得意で大好きなクラスメートたちですが、皆のディスカッションに参加しない人が一人いました。
模擬ワークショップは 2 つの教室に分かれて行うグループワークでしたが、彼女と同じグループになりました。
すると、「Akiko、一緒にやろう。こんな風にやったらどうだろう?」と進め方を色々と助言してくれました。決してお節介タイプでは無い彼女が自分の殻から出てきて声をかけてくれたことがとても嬉しく、私の方も模擬ワークショップが終了するまで、彼女をつかまえて英文のスピーチ原稿を見てもらうなど色々と相談し、話し合いました。全てのクラスメートが自分のパートを完全にうまくやることよりも、グループ全体で協力して成し遂げることの方を重視していました。
 日常場面でサインを使うようになり、クラスメートのサイン能力は、最終日の 5 日目には驚くほど完成度が高くなりました。指の動きの悪かったクラスメートもとてもなめらかにサインを出しています。サイン併用だと話す速度がゆっくりとなり、明瞭さが増し、聞きやすくなる。マカトンサインの効果を実感しました。私のコミュニケーションも決して英語が急に上達したわけでは無いのに、メンバーと話すとき、全く引け目を感じることなく対等でいられる。私がコンコンとノックをすると、クラスメートが全員・全力で向こうから押す。ことばの壁は双方向からの力で崩れました。どうやら、私に対するインクルージョンは成功したようです。
 シニアチューターの Dot 先生は、最終日の総括で「Akiko が参加してくれて、本当に良かった。私は誇りに思う」と言ってくださいました。そして、私に日本語のマカトンサインを紹介する時間を作ってくださいました。猫が顔づくろいをする日本手話由来の「猫」のマカトンサインを紹介すると、皆「かわいい!」と驚き、その後私に「猫」のサインをしながら話しかけてくれました。クラスのメンバー全員が様々な形で私に力を貸し、あるいは私とコミュニケーションを取って力を合わせ、クラス全体として成果を上げ成功をシェアできることを二人のシニアチューターたちは我慢強く見守っていてくださったのです。
 英国でマカトン法の真髄に触れたいと願って英国へ出発した私が見たものはスキルや理念だけでなく、ことばの壁を崩し人と人とが一体になれるマカトン法の底力、自分と違う人ともチームワークの中でそれぞれの良い所を引き出し合い成果を上げるマカトンレディの圧倒的な人間力、マカトンマインドとでも呼びたい暖かい熱いハートでした。
 クラスメートに「英国人は皆、こんな風に親切なのか?」と尋ねると、「マカトンレディは皆そうです。英国人は大体親切だけど、違う人もいますよ。」
  日本のマカトンレディたちもまた、英国マカトンレディたちに引けを取らない熱いハートで英国ワークショップへの申し込みや英国との事前交渉、サインやシンボルの練習や、教材の準備、助言、そして渡英の最中の励ましなど全面的に支えて下さったことは言うまでもありません。

2. ご一緒したクラスメートのこと

   今何の仕事をどんな風にやっているのか、コース修了後に仕事をどうするかがクラスメートの話題となっていました。クラスメートの中に、今回 REP を取ることを自分の人生を変えるきっかけとしている人が何人かいました。ある人はコースの直後にマカトンの翻訳サイトを自分で立ち上げて、自分がボスになりました。しかし、自分が主役なのではなく、障害者が主役になれるように、人を雇って教育し、一緒にワークしたい、と目を輝かせました。また、ある人はコース参加のタイミングで退職し、歌とケーキ作りの教室を立ち上げ、そこでマカトン法を使い障害者と健常者が共に楽しむ場作りたい。これからゼロから始める、うまくいくだろうか、と夢と不安でいっぱいでした。ある人は自分で障害者のためのダンスの教室を既にスタートさせ、シンボルを使って振り付けを教えていました。歌とマカトンサインを使ってスペイン語を健常のベビーと小学生に教える歌の先生もいました。
  REP を取ると英国では確かな社会的な信用を得ることができます。有資格者として転職にも有利になります。
公共の場所を無料で借りる、教室を立ち上げると参加者を集めることができる、シンボルへの翻訳などの仕事も入ってくる、など。全員が口を揃えて言うには、障害児者と健常児者が一緒に楽しめる機会を提供したい。それが、今回の EP 養成コースに参加した人たちのライフワークです。
  きっと英国の教育は、クラスの中で障害のある子と無い子が力を合わせて結果を出す成功体験を小さい時から積み重ね、そのような成功体験を糧に、もっと人を助けたいという熱い思いを持った人たちが REP 養成コースの門を叩いているようです。
  大きな成功体験は困難という「大きなかぶ」の所にあることを知っている人たちが手にするものなのでしょう。
              
3. ベテラン REPたち
  新人 REP たちのビジョンを聞きました。それでは、ベテラン REP たちはどんな仕事をしているのでしょうか。学校現場と成人領域の両方を見ましたので、ご報告します。
  まず、ロンドン近郊の住宅地リッチモンドにあるストラスモア特別支援学校を見学した時のことをご報告します。9 月上旬に私が訪ねた日は英国では新学年が始まる初日でした。

  小学部から高等部まで 50 人規模の小さな学校に、この日はなんと 27 人もの新入生が入り、てんてこ舞いでした。この学校で ST をしているマカトンのシニアチューターの仕事ぶりは、子どものアセスメントをし、担任の先生に困っていることを聞き、指導の手立てを提案して教材を整え、フォローアップをする、というスタイルで、担任の先生は、この REP を信頼し、彼女は担任の先生の話をとてもていねいに聞いていました。教師の専門性は日本ほど高い印象は無く、REP 養成のクラスメートの中には元教師だった人が何人かおり、教師から ST に、そして REP に、というステップを踏んで REP になる人もいました。REP が子どもを支援するチームのスーパーバイザーとして機能していました。
 
 成人分野では、この10年ほどで大きな入所施設は激減し、グループホームとデイサービスセンターが増え、これまで障害のある人に接したことが無い人が介護者・指導員として障害者のケアーに当たっていました。複数の成人施設を見学しましたが、そこでもやはり REP はチームのメンバーが行き詰まらないよう、実にていねいにメンバーの話を聞き、解決方法を提案し、その結果を確かめて次のステップに進むことをしていました。
  子どもや利用者と日々長時間に亘って接している現場のスタッフがきちんとREPに報告する、そして REP が綿密にアセスメントし、手立てを提案し結果を観察とインタビューで確かめ記録し、方針を決める。協力し合って初めてお子さんや利用者の支援が成立する一つの完成形の要(かなめ)に REP がいました。

  効率的に自分の仕事をこなすより先に徹底してチームのメンバー、特に専門性の低いメンバーの面倒を見、教育し、支援する REP の懐の広さに感銘を受け、自分の仕事をこなすことに追われがちな日頃の自分の仕事ぶりを大いに反省し、REP にふさわしい高い人間力でお子さん、利用者さん、仲間と接し助け合い成果を上げることのできる人になりたいと痛感しました。
  最後になりましたが、人間的にもスキルの点でも未熟な私を長い目で見守り英国で学ぶ機会を与えてくださった日本マカトン協会に心より感謝申し上げます。