「オズの魔法つかい」の絵本が読めるようになりました

川崎市立東住吉小学校  吉村由紀子

学校から帰ってきた男の子にいつものように「今日はことばの教室よ。」と言ったお母さんに「ぼく言葉の教室は卒業です。」と言う返事が返ってきた。驚いたお母さんが「どうして?」と尋ねると「もう本が読めるようになった。作文が書ける。お話もできる。だから卒業です。」と答えて遊び始めた。

母親は嬉しい反面「これでいいのかしら?」と戸惑ってしまいましたと言ってきた。私はこういう終わり方もあるんだなあと思いながら様子を見ることにした。

 この子は文字を読むこと、書くことが苦手で、自分から話をすることはほとんどなかった。その子が自分で卒業を決めるなど予想もしなかった。子どもってすごい成長をするんだと改めて感動した。

 3年前母親は「理解力がない。助詞が使えない。話が聞けない。落ち着きがない。」と訴えてきた。理解語彙が少なく、注意集中が短かった。会話もなかなか成立しなかった。

 理解語彙がある程度多くなった時期からマカトン・シンボルを使って文章を構成することを課題にした。教材にはマカトン協会の実験版「リニーおばさんのマカトン絵本」を使用した。この絵本では各ページで色のついていない描画とその下にシンボル文とひらがな文が対比できるように置かれている。「て、に、お、は」などの助詞に該当するシンボルは省かれている。文字への移行が期待できるこの子の場合、シンボル文に助詞を補うことが良いと考えて、「は」、「が」、「を」、「に」、「で」などの助詞の小さいカードを作った。その大きさにあわせて縮小したマカトン・シンボルとをまぜて机の上にばらばらに置く。絵本のシンボル文とひらがな文を紙で覆って隠し、絵だけを見てそれらのカードを拾い並べて文を産出する。できた文を、隠していた文と合わせて正しいかどうかを確認する。これを繰り返してきた。

 この時、二語文から三語文、多語文へと進んでいくように構成されているこの「リニーおばさんのマカトン絵本」がとても役に立った。「男の子が本を読んでいます。」「女の子が男の子と自転車で遊んでいます。」「先生が本と椅子を持っています。」などの文が構成できるようになった。そこで自分の並べたカードを文字にしてノートに書き、更にこれを声に出して読むことにした。

 初めは助詞の使い方がメチャメチャだったので、この段階では助詞には注目せずシンボルカードを正しく並べることに視点を置いた。シンボルカードが正しく並べられるようになってきたところで助詞のカードを入れ助詞も正確に並べるように要求していった。

 月に1回、別の男の子と一緒に学習をする機会があったが、その時もシンボルカードを並べて文章を作り、読むことを重ねた。同じ絵を見て二人が別々にシンボルカードを並べ答えを合わせてみることなどもやってみた。正しく並べられると嬉しくて次ぎの絵に挑戦しようと意欲的になった。シンボルへの媒体となる単純な絵と短い文章構成の「リニーおばさんのマカトン絵本」は彼らにとっても大変良い教材だった。

文を書いて読むことができるようになると別の絵を見てもことばで説明ができるようになっていた。そのうちに市販の絵本も少しずつ手にするようになってきた。

 本棚にある絵本の中から「シンデレラ」や「オズの魔法つかい」を持ってきて読んだりし始めた。初めは内容を尋ねても正確な答えは返ってこなかったがそのうちに「誰が住んでいたの?」『ドロシー。』とか「トウモロコシ畑にいたのは誰?」『かかしだよ。』と答えられるようになっていた。

 その頃から学校であったことなどをポツポツと話してくれるようになった。そして「ぼく言葉の教室は卒業です。」になった。

 理解語彙が少なく、助詞の使用に問題があり、文章構成ができなかった。読みや書きにも問題を持っていた。しかし、いまそれぞれの問題がある程度改善されてきたと思っていた時に自分で修了を告げてきたのである。多少の不安は残るけれど母親とともに見守ることにした。


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